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  • 24年2月号 [入試に出る時事問題]これだけは押さえておこう! ニュース総チェック

さぴあニュースバンク

総チェック目次
G7広島サミットを振り返って
国際政治・経済気象・災害・環境
社会
理科的なニュース
2023年の主な出来事

これだけは押さえておこう! 入試に出る時事問題さぴあニュースバンク2024年 入試対策/ニュース総チェック

 今、この瞬間にも、ウクライナや中東のパレスチナ自治区のガザ地区などには戦火にさらされて苦しんでいる人々がいます。これからの日本と世界を担う皆さんには、こうした問題には関心を持ってもらいたいです。どうするのが正解なのか、簡単には結論が出ませんが、それらの出来事は食料やエネルギーの供給に影響を与え、わたしたちの生活にも直結しています。たとえ小学生でも、自分の頭で考えてほしいことがたくさんあります。
 中学入試の社会科や理科で時事的な問題が多く出されるのは、そうした姿勢を持っているかどうかを確認したいと、学校側が考えているためです。ここでは今年の入試に取り上げられそうな2023年の主なニュースをまとめました。6年生は時事問題の最終チェックに、5年生以下の皆さんはこの1年間の世の中の動きを知っておくために、ぜひご活用ください。 ※西暦のない日付はすべて2023年です。

G7広島サミットを
振り返って

1975年に始まったサミット

 5月19日から21日まで、広島市で第49回主要7か国首脳会議(G7広島サミット)が開かれました。G7とは「グループ・オブ・セブン」の略で、日本、アメリカ、イギリス、フランス、ドイツ、イタリア、カナダの主要7か国のことです。「サミット」は山の「頂上」という意味の英語です。

 この7か国の首脳に加え、ヨーロッパ連合(EU)からもヨーロッパ理事会常任議長(大統領)とヨーロッパ委員会委員長が参加して1年に1回開かれ、世界の政治問題や経済問題などについて話し合うのがG7サミットです。その開催国はG7の持ち回りで、2023年は日本の番に当たっていました。

 サミットは1973年の第四次中東戦争が原因で起こった第一次石油危機(オイルショック)後の景気の低迷を先進国の協力によって克服するため、当時のフランスのジスカール・デスタン大統領の提唱によって1975年に始まりました。日本で開かれたのは今回で7回目です。最初の3回の開催地は東京でしたが、その後は沖縄県名護市、北海道洞爺湖町、三重県志摩市で開かれました。

 今回、広島市が開催地に選ばれたのは第二次世界大戦終結直前の1945年8月6日に、アメリカ軍によって原子爆弾(原爆)が投下された場所だということを考慮してのことです。2022年2月からウクライナに侵攻し、現在も侵略を続けているロシアは、場合によっては核兵器を使用することもあり得るかのような発言を繰り返しています。そこで、核兵器の恐ろしさを各国首脳に知ってもらうとともに、ロシアに対して、核兵器の使用は絶対に許さないという強いメッセージを送る必要があると考えられたのです。

ロシアと中国への対応を確認

 このため、G7広島サミットでも主な議題はロシアのウクライナ侵攻についてでした。サミット参加国はウクライナへの支援を継続するとともに、ロシアへの制裁をさらに強化することを確認しました。「G7広島首脳声明」では、ロシアによるウクライナに対する侵略戦争は国連憲章を含む国際法への深刻な違反だとして、改めて「最も強い言葉で非難する」としました。

 また、中華人民共和国(中国)に対しても懸念を表明しました。中国は東シナ海と南シナ海で海洋進出を強め、日本を含む複数の沿岸国と対立しているほか、場合によっては武力で台湾との統一を図ることもあり得ると繰り返し主張しているためです。ウクライナから軍隊を撤退させるよう、ロシアに圧力をかけることも中国に求めました。

 そのウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は当初、このサミットに「オンラインで」参加する予定だとされていました。しかし、初日の19日に「対面で」参加することが発表され、翌20日午後3時30分ごろに広島空港に到着。最終日の21日にはG7とEUの首脳にゼレンスキー大統領が加わった討議や、さらに招待国の首脳も加わった討議が行われました。招待国とはG7とEU以外に招かれた国のことで、今回は大韓民国(韓国)、インド、ブラジルなど8か国の首脳と、国連をはじめとする七つの国際機関も一部の討議に加わりました。

 もう一つの主な議題は核兵器について。具体的な話し合いに入る前の初日の19日、G7とEUの首脳は9人全員で広島平和記念公園内にある広島平和記念資料館(原爆資料館)を訪れました。岸田文雄首相が「被爆の実相」を伝える展示について説明し、終了後には全員そろって原爆死没者慰霊碑に献花して黙とうしました。

 現在の世界で公式に核保有国とされているのはアメリカ、イギリス、フランス、ロシア、中国です。核兵器の発射ボタンを押す権限のある首脳らが、核兵器を実際に使用したらどうなるかを見たり、聞いたりしたわけで、大きな意義があったといえます。

 ここでの体験も踏まえ、首脳声明では「全ての者にとっての安全が損なわれない形での核兵器のない世界という究極の目標に向けて、軍縮と核兵器の不拡散のための取り組みを強化する」としました。人類の歴史として、将来的には核兵器の廃絶をめざすが、現状では核兵器による抑止力の維持を否定しないということです。抑止力とは敵国に攻撃を思いとどまらせる力です。「核兵器で反撃される恐れがあるから、こちらから先に攻撃できない」と敵国も考えるため、自国や同盟国の安全が守られるというわけです。

対話型生成AIとLGBT

 さらに、世界的な物価上昇、食糧・エネルギーの供給不安への対応、地球温暖化対策などのほか、新たなテーマとして対話型生成AI(人工知能)を利用する際のルールづくり、性的少数者の人権保護などについても話し合われました。

 AIとは、大量のデータを集め、それをもとに未知の問題を解決するようなコンピュータープログラムのことです。近年では「AIの急速な発達により、人間は仕事を奪われる」といった主張も聞かれるようになりました。

 特に話題になったのは2022年11月に発表された「ChatGPT」です。これは対話型生成AIといわれるもので、聞きたいことを普通の文章で入力すれば、それに対する回答を自然な文章で返してくれる点で画期的です。ただし、AIはインターネット上にある膨大な情報を検索し、あることばと一緒によく使われることばを調べ、それに基づいて回答をつくっているにすぎません。その文章の内容が正確かどうかは必ずしも保証されず、誤りが多いこともあります。また、作り出した文章や画像がプライバシーや著作権を侵害する可能性も指摘されています。さらに、偽情報の作成や拡散に使われ、世論が操作される懸念もあります。

 こうしたことから、G7広島サミットでは対話型生成AIの国際的なルールづくりを進めることで合意しました。12月1日にはG7のデジタル・技術担当大臣会合がオンラインで開かれ、「広島AIプロセス」が最終合意に至りました。これは開発者から利用者まですべての関係者が守るべき責務の概要を示した「指針」と、開発者向けに責務をより具体化した「規範」から成ります。生成AIに対応した世界初の包括的な国際ルールで、日本国内ではこのルールを基にAIをめぐる制度づくりが本格化します。

 指針では「市場投入前に危険性を評価し、それを軽減する適切な措置を講じる」ことなどを開発者に求めています。また、「AI固有のリスクに関するデジタルリテラシーを向上させること」「AIの脆弱性の検知に協力し、情報も共有すること」など、利用者に求める内容も盛り込まれました。さらに、AIの国際的な専門機関の日本事務所を新設し、各国政府や民間企業と生成AIに関する研究・開発を行うことも合意されました。

 一方、性的少数者については、首脳声明に「性的マイノリティの人権と基本的自由に対するあらゆる暴力と侵害を強く非難する」「性自認、性表現、または性的指向にかかわらず暴力や差別から解放され、生き生きとした人生を享受できる社会を実現する」と明記されました。生物学的な性別と異なる性を自認し、表現することも、同性を指向することも、けっして異常ではないのですが、そのような人はこれまで差別や偏見に苦しんできました。首脳声明ではこうした人の人権を積極的に守るべきだと確認したわけです。

 日本ではG7広島サミットの閉幕後の6月16日、「性的指向及びジェンダーアイデンティティの多様性に関する国民の理解の増進に関する法律(LGBT理解増進法)」が成立しました。国や地方公共団体は啓発活動に取り組むことなどを定めたもので、この法律によってすぐに大きな変化があるわけではありません。性的少数者が自然に受け入れられる社会を実現させていくのはこれからだといえます。

補足しておくと

 G7サミットには主要7か国の首脳以外に、さまざまな国の首脳や国際機関の代表も招待されるようになっています。今回の招待国にはインドとオーストラリアが含まれていたため、2日目の20日には「クアッド」の首脳会合も開かれました。「クアッド」とは英語で「四つの」という意味で、日本、アメリカ、オーストラリア、インドの4か国による枠組みです。安倍晋三元首相が唱えた「自由で開かれたインド太平洋」を守ろうとするもので、今回もその方針が確認されました。また、ふだんは首脳が直接顔を合わせる機会の少ない国どうしが関係を深めるきっかけになることもあります。たとえば、今回はウクライナのゼレンスキー大統領がインドのナレンドラ・モディ首相と会談しました。欧米の先進国より相対的に南に位置するアジア、アフリカ、中南米などの国々を「グローバルサウス」といいますが、インドはその代表格です。ロシアを強く非難することは避けているインドと、ウクライナの首脳が会談する機会は通常ならありませんが、G7サミットがその機会を提供したわけです。インドのモディ首相からは「ロシアのウクライナ侵攻は政治問題でも経済問題でもなく、人道問題」とのことばがありました。

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