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  • 24年2月号 [入試に出る時事問題]これだけは押さえておこう! ニュース総チェック

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これだけは押さえておこう! 入試に出る時事問題さぴあニュースバンク2024年 入試対策/ニュース総チェック

 今、この瞬間にも、ウクライナや中東のパレスチナ自治区のガザ地区などには戦火にさらされて苦しんでいる人々がいます。これからの日本と世界を担う皆さんには、こうした問題には関心を持ってもらいたいです。どうするのが正解なのか、簡単には結論が出ませんが、それらの出来事は食料やエネルギーの供給に影響を与え、わたしたちの生活にも直結しています。たとえ小学生でも、自分の頭で考えてほしいことがたくさんあります。
 中学入試の社会科や理科で時事的な問題が多く出されるのは、そうした姿勢を持っているかどうかを確認したいと、学校側が考えているためです。ここでは今年の入試に取り上げられそうな2023年の主なニュースをまとめました。6年生は時事問題の最終チェックに、5年生以下の皆さんはこの1年間の世の中の動きを知っておくために、ぜひご活用ください。 ※西暦のない日付はすべて2023年です。

社会

1NEWS CHECK 止まらない少子化

出生数70万人割れが目前に

出生数、死亡数、合計特殊出生率の推移

 11月7日、厚生労働省は令和5年6月分の人口動態統計月報(概数)を公表しました。それによると、2023年1〜6月に国内で生まれた日本人の子どもの数は前年同期より4.1ポイント少ない約35万2000人だったことがわかりました。この傾向が変わらなければ、2023年通年の出生数は70万人台前半となり、過去最少だった2022年の約77万1000人をさらに大きく下回る可能性があります。

 一方、2022年に国内で死亡した日本人は約156万9000人と戦後最多で、出生数と死亡数との差である「自然増減数」は約79万8000人ものマイナスでした。これは過去最大の減少で、人口の自然減は16年連続です。

 また、2022年の合計特殊出生率(1人の女性が一生涯に産むと見込まれる子どもの数)は1.26で、前年を0.04ポイント下回り、7年連続で低下しました。人口を維持するためには、合計特殊出生率は最低でも2.07程度は必要とされています。しかし、日本では1970年代にその水準を割り込み、2005年には史上最低の1.26を記録しました。その後、2015年には1.45まで回復したものの、2016年から2022年までは7年連続で前年を下回り、ついに2005年の1.26に並んでしまったのです。

 出生数や合計特殊出生率がここまで落ち込んだ要因について、厚生労働省では「新型コロナウイルス感染症の広がりを受け、出産や育児に不安を感じた人が多かったことが影響した可能性がある」とみています。また、同じ時期に婚姻数も急減。2019年は約59万9000組でしたが、2020年は約52万6000組、2021年は約50万1000組、2022年は約50万4000組となりました。日本の場合、結婚していない男女から生まれる子どもは少ないので、婚姻数の減少は出生数の減少に直結してしまうのです。

 こうした状況を受け、「異次元の少子化対策」を表明していた岸田首相は6月13日に会見を開き、この日に閣議決定した「こども未来戦略方針」を発表しました。その目玉は児童を養育している人に支給する児童手当を拡充することで、すでに結婚している女性に、もう1人子どもを産んでもらおうとするような内容です。こうした対策の財源に充てるために、公的医療保険料に上乗せして2026年度から「支援金」を徴収することが考えられています。しかし、国民に新たな負担を求めることになるため、反発も予想されます。

 夫婦1組当たりの子どもの数は、1970年代からあまり変わっていないことを考えると、合計特殊出生率が低下している最大の原因は、一生結婚しない人の割合が上昇していることにあるといえます。経済的な理由から結婚をあきらめている若者が多いのだとしたら、そのような層に対する支援こそが必要という声も強まっています。

インドの人口が世界一に

 一方、世界の人口はまだ増え続けています。4月19日に国連人口基金が発表した「世界人口白書2023」によると、2023年半ばの時点でのインドの人口は約14億2860万人、中国の人口は約14億2570万人だとされています。インドが中国に代わり、人口世界一の国になったということです。中国では少子高齢化が始まっているのに対して、インドには若い世代が多く、人口はこれからも増えると見込まれるため、さらなる経済成長が期待され、各国から熱い視線を浴びています。

補足しておくと

 2023年4月、厚生労働省の国立社会保障・人口問題研究所は、およそ50年後までの日本の総人口の推移を予測した「日本の将来推計人口」を6年ぶりに発表しました。ここでいう総人口には日本に3か月以上住んでいる外国人も含まれます。

 それによると、2020年に1億2615万人だった総人口は、2056年には1億人を割り、2070年にはおよそ8700万人にまで減少するとされています。それでも6年前の2017年に発表された推計結果よりは、人口減少のペースは緩やかになるとしています。外国人が入ってくるためで、その割合は、2020年には2.2%でしたが、2070年には10.8%になるとされました。外国人と共存する社会の構築が急がれているといえそうです。

 65歳以上の高齢者の割合は、2020年は28.6%でしたが、2070年は38.7%になるとも予測しています。ただし、高齢者の絶対数は2043年の3953万人をピークに、以後は減少していきます。とはいえ、税金や社会保険料を負担する15〜64歳の現役世代も減り続けるため、年金保険をはじめ、現役世代が高齢者を支えることが前提の制度の維持は、今後ますます困難になっていくでしょう。その見直しも急務です。

2NEWS CHECK 外国人に頼る「消費」と「生産」

「インバウンド消費」が回復

 前項で見たように、日本の人口減少は非常に速いペースで進んでいます。その結果、お金を使う人も減り、経済の縮小が見込まれます。そこで、減った分は外国人観光客に国内でお金を使ってもらって補おうという考え方が生まれました。それを受け、2010年代には国を挙げて外国人観光客の誘致に取り組んできました。その政策は一定の成果をもたらし、2019年には訪日外国人の数が約3188万人にもなり、それらの人々の国内での「インバウンド消費」は約4兆8000億円にも達しました。

 しかし、2020年春からは新型コロナウイルス感染症の世界的な流行により、人々の国境を越えた移動が厳しく制限されるようになりました。そのため、外国人観光客もインバウンド消費も急減。一時はゼロに近くなったほどです。

 外国人観光客の受け入れが条件つきで再開されたのは2022年6月のことでした。2023年5月8日以降は、新型コロナウイルス感染症の感染症法上の扱いがそれまでの「2類感染症相当」から「5類感染症相当」に変わったため、いわゆる「水際対策」がなくなり、外国人観光客の受け入れも本格的に再開されました。

 それに伴い、デメリットも改めて顕在化しています。その最大のものは京都などの大観光地で顕著な「オーバーツーリズム(観光公害)」です。観光客が多すぎるため、電車やバスの混雑、交通渋滞の激化などで、住民の生活に影響が出ているのです。それに加えて、ごみのポイ捨て、落書き、民家の敷地への無断侵入といったマナー違反の行動により、住民に迷惑をかけている観光客がいるのも、残念ながら事実です。また、新型コロナウイルス感染症により、国内外の旅行が事実上できなくなった時期には観光産業に携わっていた人の多くが離職し、ほかの業界に移っていきました。こうした人々は今も十分には業界に戻ってきていないため、特にホテルや旅館では人手不足が深刻で、予約があっても断らざるを得ないほどです。

外国人労働者数は約182万人に

外国人労働者の推移(各年の10月末現在)

 人口減少は働き手不足にも拍車をかけ、外国人労働者に頼らざるを得ない状況が続いています。厚生労働省の「外国人雇用状況」の届出状況まとめによると、10月末時点での外国人労働者数は、2021年は約172万7000人だったのが、2022年は約182万3000人になったことがわかりました。

 日本で働く外国人労働者の在留資格はいろいろです。日本語学校などへの留学生は生活のためにアルバイトをしてもよいことになっており、コンビニエンスストアなどではよく見かけるようになっています。

 また、「外国人技能実習制度」に基づく技能実習生もいます。この制度は農林水産業や工業などの分野で、働きながら技術を身につけてもらい、帰国後にそれを自国の発展に役立ててもらうためのものだとされています。しかし、実際には人手不足を解消する手段になってしまっています。そこで2019年4月、改正された「出入国管理及び難民認定法(入管難民法)」が施行され、「特定技能」を持つ外国人を正式に労働者として受け入れることになりました。対象となる業種は建設、製造業、宿泊、農業、外食業、介護などです。

補足しておくと

 少子高齢化と人口減少に歯止めがかからない以上、消費も生産もそのかなりの部分を外国人に頼らざるを得ない状況は今後も続くでしょう。2023年には入管難民法のうち、「難民」の受け入れに関する部分も改正されましたが、これについても議論がありました。前項でも触れたように、日本に住む外国人は今後ますます増えることが予想されます。日本人と外国人とがよりよく共生できる仕組みを考えることが必要です。

3NEWS CHECK 人も物も運べなくなる?「2024年問題」

時間外労働の制限を強化

 「2024年問題」が一部の業界で話題になっています。これは2024年4月から運輸・建設・医療の各業界で始まる、時間外労働の上限規制によって起こり得るさまざまな問題をいいますが、その業界で働いていない人の生活にも大きな影響があります。

 まず運輸業界では、トラック運転手などの時間外労働時間の上限が年間960時間までに制限されます。併せて終業から次の始業までの休息時間(勤務間インターバル)がこれまでの「継続して8時間以上」から、基本的には「継続して11時間(下限9時間)」とされます。これにより、1人当たりの運転時間が制限されるため、企業はより多くの人を雇うか、荷物の取扱量を減らすかしなければならなくなります。その結果、配送の遅れなどが発生することが懸念されているのです。一方、労働時間が減る運転手は、体力的には働きやすくなる半面、収入が減る恐れもあります。

 こうした状況に対応するため、本来なら「人」を乗せる鉄道やバスの車両に「物」を載せる「貨客混載」という取り組みが盛んになってきました。JR各社では新幹線に食品や生花を載せて大消費地の首都圏に運ぶようになっています。

 「物」ではなく「人」を運ぶバス業界でも、運転手の人手不足に悩んでおり、減便や路線の廃止などの動きが出ています。ほかに移動手段のない人々が通勤・通学、買い物、通院などに不自由する事態がすでに発生しています。地方だけの問題ではなく、大都市圏でもそのような地域が出ています。

 建設業界では、時間外労働は基本的に1か月45時間以内、年間360時間以内に制限されます。この業界でも人手不足と長時間労働が常態化しているため、労働時間が少なくなれば、建設業界で働こうという人が増える可能性もあるでしょう。

 医師は人の命にかかわる仕事であるという観点から、勤務医の時間外労働の上限は原則として年間960時間とされました。ただ、地域医療が担えなくなるなど、やむを得ない事情がある場合に限り、年間1860時間を上限とする特例が設けられました。この過酷な労働条件を少しでも改善するため、看護師などに医師の役割の一部を分担させる「タスクシフト/タスクシェア」という取り組みも進められつつあります。

補足しておくと

 2019年4月1日に施行された「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律(働き方改革関連法)」は、一部の業界についてはこれまで適用が猶予されてきました。人手不足が深刻な運輸・建設・医療などの業界では、厳しくなった規制をすぐに守ることは難しいと考えられたためです。その猶予期間が間もなく終わるため、今、大きな問題になっているのです。「働き方改革」ではそれぞれの労働者が仕事だけでなく、私生活も充実させられる「ワークライフバランス」を実現するため、残業時間の制限が厳しくなりました。一方、労働条件の規制が緩和された面もあります。たとえば、年間の収入が1075万円以上の専門的な仕事をしている労働者の労働時間は規制しないという「高度プロフェッショナル制度」が創設されました。しかし、現時点では、この制度が適用されている労働者の数はわずかです。

4NEWS CHECK 公共交通機関をめぐる話題

北陸新幹線が敦賀まで延伸

 2024年の公共交通機関に関するビッグニュースといえば、北陸新幹線が3月16日に金沢駅から敦賀駅(福井県敦賀市)まで延伸されることでしょう。東京駅から敦賀駅までの所要時間は最短で3時間8分となります。

 敦賀駅から先は福井県内をさらに西進し、小浜市を経由して京都府に入ることになっています。最終的には新大阪駅まで延伸し、東海道新幹線が運休した場合の代わりのルートとして機能させることもめざしています。しかし、敦賀駅から西はまだ着工されていません。

 なお、北陸新幹線が敦賀駅まで延伸されると、在来線であるJR北陸本線の金沢駅から敦賀駅まではJR西日本の路線ではなくなり、地元の自治体や企業が資金を出し合って設立した第三セクターの会社の路線になります。このため、名古屋や大阪から北陸に向かうJRの在来線特急は敦賀駅止まりとなり、かえって不便になるケースも出てきます。そのため、首都圏との結びつきがさらに強まることも予想されます。

宇都宮市でLRTが新規開業

 2023年には新たな交通機関の開業も話題になりました。まず8月26日には栃木県宇都宮市のJR宇都宮駅東口と、宇都宮市の東に隣接する芳賀町の工業団地とを結ぶ14.6㎞の次世代型路面電車(LRT)「宇都宮芳賀ライトレール線」が開業しました。既存路線の延伸ではなく、まったく新しい路面電車が国内で開業するのは75年ぶりのことです。愛称は「ライトライン」です。

 LRTは「Light Rail Transit」の頭文字を取った略語です。明確な定義はありませんが、高齢者などでも乗り降りのしやすいバリアフリーの低床式車両を使った次世代型の路面電車のこととされています。ヨーロッパ諸国やアメリカでは環境に与える影響が小さい、都市型の公共交通機関として導入される例が増えています。

 宇都宮市のような人口50万人規模の都市では、地下鉄を建設することは現実的ではありませんが、交通渋滞を緩和するためにも、レール上を走る何らかの公共交通機関が必要と考えられました。そこで、LRTを軸とした公共交通機関でどこにでもアクセスできるようにする「ネットワーク型コンパクトシティ」構想を推進してきたのです。コンパクトシティというのは公共施設や商業施設などが、車でしかアクセスできないような郊外にではなく、中心部や鉄道・バスなどの路線沿いに「コンパクトに」集約された都市のことです。同様の取り組みを行っている都市としては富山市がよく知られています。

 宇都宮市の中心市街地はJR宇都宮駅の西側で、しかも駅からやや離れています。そこで、今後はLRTを駅の西側に延伸し、同市の東西を走る「背骨」を形成してバス路線などと結びつけ、効率的で持続可能な公共交通機関を持つ中核都市をめざすことにしています。

 現在、ライトラインの平日の利用者数は1日に約1万3000人です。11月15日には開業以来の累計の利用者数が100万人に達し、新たな公共交通機関として定着しました。

補足しておくと

 新幹線網が拡充することは、旅行や帰省の利便性が高まるだけに歓迎される動きでしょう。しかし、特別なときだけに利用する新幹線がいくら便利になっても、毎日の通勤や通学に利用する在来線が切り捨てられたのでは本末転倒です。在来線が第三セクターの経営になる場合、運賃は値上げされるため、地元の住民にとっては負担が増えることになります。また、これまで在来線特急が停車していたのに、新幹線は停車しない駅の利用者からはかえって不便になったという声が必ず出てくるものです。この問題はプラスとマイナスの両面から考えることが大切です。

 一方、LRTの新規開業は、地方の公共交通機関の新たなあり方を模索する取り組みとして注目されます。少子高齢化や過疎化などに伴い、地方の鉄道は維持が困難になっており、JR東日本でもJR西日本でも、極端な赤字路線や災害で被災した路線についてはそのあり方を見直そうとしています。こうした動きも今後注視していきたいものです。

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