受験ライフをサポートする 進学情報誌 さぴあ

さぴあは、進学教室サピックス小学部が発行し、内部生に配布している月刊誌です。

最新中学入試情報

2023年度中学受験  サピックス小学部第29期生/親子で歩んだ 受験の軌跡

進学校 麻布中学校

無限の可能性 〜親子げんかの果てに〜

Y.Sさん お子さんの名前 Tくん

 息子の受験は、落ちる一方の成績、そして、反抗期との壮絶な戦いでした。
 息子自身の希望でサピックスに入室したのは新4年生の2月。最初の1年間は親や先生の指示に一生懸命取り組む素直さが成績にも反映され、順風満帆に思えました。
 しかし、5年生になると何をさせようにも口答えばかりし、毎日盛大な親子げんかが勃発しました。私は何度、「勉強しないなら受験なんてやめなさい!」と叫んで、テキストをゴミ箱にたたき込んだことでしょう。ゲームや漫画に夢中な息子の成績は、次第に下降線をたどりました。
 新6年生に入るころ、息子は突然、「麻布中に入りたい」と言い出しました。サピックスの先生方に、麻布の自由闊達な校風をおもしろおかしく聞かされて、まんまと乗せられたのです。そこから息子はゲームをみずから封印し、親の指示ではなく、みずからの意思で勉強するようになりました。
 受験生らしい姿に安心したのも束の間、「算数をテコ入れする」と宣言した息子は、親の懸念をよそに天王山の夏を丸々算数「だけ」に費やしました。夏の間、ずっと放置された理科・社会は記憶から抜け落ち、算数が上がってもカバーし切れずに成績は秋から低迷しました。みんなが本気を出す時期に順位を戻すのは困難で、厳しい現実を前に息子は少しずつ戦意を喪失。すると、やる気のなさがまた成績に反映されるという悪循環です。焦った私は志望校変更を考えたものの、頑固な息子は譲らず、そのくせ勉強には身が入らず、「ちゃんと勉強しなさい!」「してるし!」と不毛に怒鳴り合う日々が冬まで続きました。
 途方に暮れてサピックスに泣きつくと、「彼の態度は不安の裏返しなので叱咤しても無駄。彼の努力を認めて自信を持たせてやることしか、親にはできません。状況は厳しくとも、受験の先も続く彼の人生の糧となる選択をしましょう」と諭され、私は勝ち目のない挑戦でも最後まで黙って見守ろうと、腹をくくりました。
 突然、息子にやる気スイッチが入ったのは1月受験の翌日。1月校で満足のいくたたかいができた経験が自信につながり、2月の大勝負と向き合う勇気が湧いたのでしょう。最後の3週間は鬼気迫るほどの集中力でした。私は呆気にとられつつ、ネガティブなことばを封印して、彼のがんばりをただ肯定することだけを心がけました。
 2月3日、栄光学園中と麻布中の合格を続けて確認して涙の止まらない私に向かって、「ほらね、ぼく自信あるって言ったじゃん」と、すました口調で言いながらニヤリと笑った息子の顔は、小憎たらしくて愛おしくて誇らしくて、一生忘れられそうにありません。親の予想をはるかに超えて全勝を決めた、息子のすさまじいラストスパートと勝負強さには脱帽です。
 息子はたぶん、この先も親の言うことなど聞きもしないでしょう。自分で道を選び、転んでも一人で立ち上がり、逆風のなかも自分らしい歩みで突き進むのだろうと思います。親はただ、わが子の無限の可能性を信じて黙って背中を見守るべし。それがこの中学受験を通し、未熟な親が学んだいちばんの教訓となりました。

 前の体験記 | 男子校目次に戻る | 次の体験記 

2023年度中学入試
受験体験記
男子校女子校共学校

ページトップ このページTopへ