「中学受験がお母さまにとってお子さんと向き合い、一緒に取り組める最後のイベントかもしれません。中学生になると反抗されがちですし…」
　息子が低学年のときにサピックスの保護者会で聞いたこのひと言を、最後まで忘れることはありませんでした。当時は漠然と中学受験を考えていましたが、今のうちに悔いのないくらい、しつこいと思われるくらいに、でも息子の人生に関わっておきたいという気持ちになったのを覚えています。
　とはいえ、特に知識も計画性もない私は、次々に目の前に現れる試練と格闘する、もぐらたたきの日々でした。学年が上がるごとにテキストは難しく感じられるようになり、量も増えて苦戦する息子に、優先順位と捨てる勇気を理解させ、私自身は常にテキストの整理に追われていたように思います。時にはテキストを分解し、必要な部分だけをまとめたり、志望校対策になりそうなものだけを集めた特製問題集を作ったりしました。
　また、成績の浮き沈みが激しい息子の志望校を決めることも簡単ではありませんでした。テストでは４回に１回、神がかった成績を取れるという傾向まではつかめましたが、果たして本番では神がかってくれるのか、確率的には神がからないのではと思い、どの状態のときの偏差値で志望校を決めるのか、本当に悩みました。サピックスの先生方にも相談し、息子の性格を踏まえ、そして悔いの残らない中学受験になるように、とアドバイスを頂きました。
　しかし、安全圏と思っていた１月校に落ちてしまい、親子でとても動揺しました。そんなときにも、先生がお電話で「これが実力ではないはず」と激励してくださったことで、心が折れずに、本番に向けてさらに気を引き締めて取り組み続けられたのだと思います。
　息子は学校が大好きでしたので、できるかぎり学校にも行かせました。さまざまな不安はありましたが、本番直前の集中力には目を見張るものがありました。中学受験を通じて、みずから必要なことを勉強する力が身についたことが、とても大きな収穫だったように思います。
　タイトルの質問は、本番前日、入試応援動画を何度も見て、気持ちを落ち着かせている息子に聞いてみたものです。迷わず「うん」と即答でした。個性的で魅力的な先生方の授業に引き込まれ、同じ目標を持ったお友だちと切磋琢磨しながら過ごした時間は、息子にとって忘れることのできない大切な財産になったのだと思います。
　受験勉強を通じて、精神的にもたくましく成長し、本番では神がかりではなく、積み上げてきた力を発揮することができたのだと信じています。
　怒濤の中学受験が終わり、平穏な日々に戻って振り返ってみると、しんどいこともありましたが、中学受験を口実に息子のそばにいられた最高の時間でした。これからは口出しを我慢して成長を見守りたいと思います。息子に関わってくださった先生方、本当にありがとうございました。