受験ライフをサポートする 進学情報誌 さぴあ

さぴあは、進学教室サピックス小学部が発行し、内部生に配布している月刊誌です。

最新中学入試情報

2023年度中学受験  サピックス小学部第29期生/親子で歩んだ 受験の軌跡

進学校 広尾学園中学校

ギリギリ完熟

M.Sさん お子さんの名前 Nさん

 659グラムの超未熟児として娘は生まれた。医師が説明した発症が懸念される健康不全リストは、A4サイズ1枚を優に超えた。3か月半保育器で過ごして退院した娘の体は、生まれたてのチワワより一回り小さかった。それから9年。背は小さいながら障害もなく元気に過ごす娘に、幸運に感謝してみずからの可能性を広げてほしいと、4年生でサピックスの門をたたいた。スリリングな授業と気の合う仲間のおかげで、娘はサピックスがたちまち好きになった。
 だが、そんな様子とは裏腹に成績は伸び悩んだ。生来の面倒くさがりが災いし、不注意ミスを連発する。計算や転記を間違う。式も図もかかない。文章を読み違える。新しい漢字を発明する。空欄を放置する。難しいとすぐ音を上げる。集中がすぐ途切れる。何度直しても同じ問題を間違える。わからないわけではないのに、テストで結果が出ない。1年が過ぎ2年が過ぎ、「次こそは」と願う親の期待がかなえられることはなかった。
 6年生の12月。最後のサピックスオープンで娘は最低偏差値を更新する。志望校を変えるべきか悩む私に娘は言った。「ほんとは渋渋か渋幕に行きたい」。それ、早く言ってよ。偏差値が下がったのに、志望校を上げるやつがどこにいる? どうやらクラスの仲間に刺激を受け、自分も挑戦したくなったらしい。心意気は立派だが、偏差値が10以上も上の学校を今からめざすのは無謀すぎる。でも、わずか12歳で妥協を覚えてほしくはない。「もう一度チャンスをもらったと思って、残り2か月がんばろう」。そう娘と決めた。それからは、そばで見ていてもよくがんばったと思う。基礎もおぼつかなかった理科は、ポイントチェックと「コアプラス」を全部やり直して得意科目になった。問題文に線を引き、大きく計算し、式と図をかいたら、算数のケアレスミスは目に見えて減った。国語や社会は空欄を残さず、1点でも多く取りにいく。捨て問を見極め、みんなが解ける問題を落とさない。みずから目標を定めたことで、受験がようやく自分事になっていった。点数が悪いのが嫌で、過去問の答えをこっそり写すほど精神的にも未熟だった娘。小さな体のなかで、受験のスピードに心の成長が追いつけなかったと今ならわかる。
 そして迎えた2月本番。娘には未知なる性格が覚醒していた。粘り強く、あきらめが悪い。2月2日、最初の合格が決まっても、娘はにこりともしなかった。2月5日、渋谷渋谷中を受けるラストチャンスの朝、見送る私を振り返ることなく試験会場に入っていく後ろ姿は、かつてないほど大きく見えた。残念ながら渋渋も渋谷幕張中も願いは届かなかったが、当初のダブル第一志望の2校から合格を頂けた。受験はおそらく、子どもの12年の人生で最大の試練だ。努力が報われた達成感は、この先きっと大きな支えになるだろう。授業、テキスト、仲間。サピックスには合格に必要なすべてがある。
 最後まで見放さずご指導してくださった先生方、ありがとうございました。この場を借りて、心より御礼申し上げます。

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