娘は受験を経験するなかで、親が学ばせたかった多くのことを学べました。いちばん大きな学びは、努力をすれば将来を選択できるようになるということです。
　娘は保育園のころから、フェリス女学院中にあこがれていました。自宅から徒歩圏内に学校があり、生徒や校舎を見ていて身近な学校だったためです。目に見える目標が存在することで、サピックスに入ってからの努力には身が入っていました。２回あったフェリスの学校別サピックスオープンでは、ともに十分合格圏内に入ることができていました。一方で親としては、フェリス一本足の思いは、不合格の際のリスクでもあるとも考えていました。本人の視野を広げるために、受験する可能性がある学校の体験授業や文化祭にはなるべく訪れるようにしていました。
　いつもどおりに受ければ合格できるだろうとの思いで、２月１日のフェリスの受験に臨みました。しかし、やはり本番では何があるかわからないものです。「算数の終了時間を10分間違えた」とのことでした。各科目の試験時間が黒板に書かれないため、緊張からか終了時刻を「計算ミス」したようです。翌日夜に見た発表では、まさかの不合格でした。
　その夜、サピックスの先生からお電話で、娘の努力をひたすらたたえていただきました。それまで授業のなかでは、「どんな結果であれ、がんばって合格し入学した学校が、自分にとっていちばんいい学校」といったことを教えてもらっていたようです。フェリスの不合格を見る前に広尾学園中の合格を確認していたこともあり、本人はこの結果を受け入れようとしていました。親からは「今回の結果がいちばんよかったと、後で必ず思うようになる」と伝えました。
　ここに至り、広尾学園の体験授業に参加して視野を広げておいてよかったと思いました。活発そうな校風、受験会場でも感じたインターナショナルな雰囲気、フェリスにはないがやりたかったスポーツのクラブが存在していることなどをイメージし、気持ちが切り替わりました。完全に気持ちが広尾学園モードになってから数日後、思いがけずフェリスから追加合格のご連絡を頂きました。初志貫徹でフェリスにするのか、すでに入学後のイメージが固まりつつあった広尾学園にするのか、本人に決めさせました。結論は、広尾学園になりました。２月１日以前には思いもしなかった選択でした。フェリスに辞退の連絡をした夜、サピックスの先生から「自分が選んだ道、絶対に正しい」と力強く言っていただきました。
　進路は初志貫徹とは違ったものとなりました。ただ、最終的にはみずからの努力で得た合格のなかから、望む道を選択することができました。最善を尽くし、その結果を受け入れ、将来の選択をすることを、受験を通して経験できました。これは人生の財産になると思います。そのような意識の土台を、授業や合否の際のおことばで醸成していただいたサピックスの先生方には、とても感謝しています。