受験ライフをサポートする進学情報誌 さぴあ

和田先生が語る灘校の真価

2026年11月号から転載

和田先生が
語る

灘校の真価

  • 「 ( )
  • 精 ( せい )
  • 力 ( りょく )
  • 善 ( ぜん )
  • 用 ( よう )
  • 」 ( )
  • 「 ( )
  • 自 ( じ )
  • 他 ( た )
  • 共 ( きょう )
  • 栄 ( えい )
  • 」 ( )

自分で選ぶ学びを通じて
「生徒が主役」の学校をつくる

2002(平成14)年、週5日制が導入されたことをきっかけに、灘校で新たに始まった学びの枠組みが「土曜講座」です。各界で活躍する卒業生や、さまざまな専門性を持つ教員の力も借りながら、生徒がみずから選んで学ぶ場です。教務主任としてこうした改革に携わった和田先生は教頭を経て2007年に校長に就任します。今回は、教務主任時代に導入された土曜講座がもたらした変化や、校長就任時に掲げた「生徒が主役」ということばに込めた思いを語っていただきました。

文責=和田 孫博

自分で選んで学ぶことで
生徒たちの目の色が変わる

前回もお話ししたとおり、2002年に週5日制を導入したことは灘校の大きな転機になりました。単に土曜日が休みになるだけでなく、カリキュラムや学校の在り方を見直す機会になったからです。

なかでも、このときに始まった「土曜講座」は、灘校らしさを体現するプログラムといえます。「せっかく土曜日が空くなら、ふだんの授業とは違うかたちで、生徒たちの興味や好奇心を伸ばす時間にしよう」。そんな発想から始まった特別講座です。

灘校OBを中心に多彩な講師を迎え、中2から高2までの生徒が好きな講座を選びます。前期(6月)と後期(10月)にそれぞれ30講座ほどが開講されています。内容だけでなく学び方も多彩で、座学にとどまらず、校外へ実習に出掛けたりする講座もあります。

実際に始めてみて、わたしが何より驚いたのは、生徒たちが目の色を変え、生き生きと学んでくれたことです。もともと灘校には学びに貪欲な生徒が多いですが、どれほど好きな科目でも、授業にはどうしても「義務」の側面があります。ところが土曜講座は、純粋に自分の興味で選べるとあって、本当に食らいつくように話を聞いているのです。小さいころから興味を持っていた分野ならなおさらです。特に、生徒たちの進路につながる医療関連の講座は受講者が多いですし、最近ではコンサルやAI系、金融などの講座の人気も高まっています。

講座で得た学びは「聞いて終わり」にせず、レポートを提出してもらいます。なかには、わたしでも歯が立たないほど専門的で難解な論文もあり、どれも力作ぞろいです。優れたものは論文集にして生徒たちに配布します。すると、それを読んだほかの生徒がまた刺激を受ける。そんな好循環が20年以上も続いているのです。

各界で活躍する先輩たちの体験談を聞いたり、ふだんの授業とは違う課題に挑戦したりする「土曜講座」。砂金採りなど校外に出掛ける講座も

各界で活躍する先輩たちの体験談を聞いたり、ふだんの授業とは違う課題に挑戦したりする「土曜講座」。砂金採りなど校外に出掛ける講座も

教員生活30年の節目に
校長として新たな役割を担う

和田 孫博

一連の改革に教務主任としてかかわった後、教頭就任のお話をいただきました。英語教員として30年、担任団として6年間の持ち上がりを4周終えたタイミングでした。

自分としてはもう1周、担任団の1人を務めたいという思いもあったのですが、翌年に創立80周年を控えていたこともあり、よい機会だと判断してお受けしました。そして、教頭を1年間務め終わった2007年4月に、校長を拝命しました。

校長就任のあいさつで、わたしは「生徒が主役の学校であり続けよう」と伝えました。その後15年間にわたり、折に触れて繰り返し伝え続けたことばでもあります。

振り返れば、歴代校長はそれぞれ印象深いことばを持っていました。たとえば、わたしが生徒だった当時の校長がつくった「黒い秀才」ということば。勉強に打ち込むだけではなく、太陽の下でスポーツにも取り組むたくましい生徒像が込められたものです。

では、わたしは校長として何を伝えていくのか。そう考えた際に自然に浮かんだのが「生徒が主役」というフレーズです。灘校には明文化された校則はありませんし、矩のりをこえなければ、自分の好きなことに自由に打ち込める学校です。これまでも、そしてこれからもこの伝統を受け継いでいきたいという思いを込めました。

主役が力を発揮するためには、周囲の支えが必要です。そのため、保護者の方には「脇役として生徒たちを支えてください」と伝えています。脇役ですから、時には一歩引いて言いたいことを飲み込んだり、場合によっては「切られ役」を演じなければならなかったりする場面もあるでしょう。生徒たちが自分の力で成長していくためには、そんな役回りも重要なのです。

では、わたしたち教職員の役割は何か。わたしは、映画でいえば音響や照明、脚本、衣装などのスタッフだと思っています。それぞれの持ち場で主役を支え、無事に卒業してくれたら報われる。そんなスタッフロールにひっそりと文字が刻まれただけで満足です。

ただし、主役ががんばってくれなければ、スタッフが前に出ていかざるを得ません。そうならないためにも、「君たち自身が主役としてがんばってほしい」と、入学式ではいつもそんなことを話してきました。

保護者も教職員も
主役を支える脇役でありたい

「生徒が主役」であることは、学校行事でも実感します。たとえば文化祭では、生徒会長や文化委員長といった代表者だけではなく、200人近い生徒が「文化委員」としてかかわります。企画が得意な生徒はアイデアを出し、デザインが得意な生徒はパンフレットや展示物で力を発揮する。そのほかにも、景品を考えるチームがあったり、各団体の活動を組織化したり、多くの生徒がそれぞれの個性を生かした役割を担います。

灘校生には「よく学び、よく遊ぶ」ということばが本当によく当てはまります。勉強するときは勉強に集中する。遊ぶときは思い切り遊ぶ。学校行事があれば、準備にも運営にも全力を注ぐ。一人ひとりが個性を発揮し、力を合わせることで全体がうまくいく。これは、まさに校是に掲げた「精力善用」「自他共栄」です。力を「善用」するためには、まずは自己を完成させることが大事です。そして、自己を完成させるためには、他者の完成も助けなくてはいけない。自己も周囲も成長してこそ「共栄」できるのだと思います。

「生徒が主役」ということばは、外から持ち込んだ新しい理念でも何でもなく、もともと灘校にあった空気をあらためてことばにしたに過ぎません。生徒が自分の興味を追求し、得意な場所で力を発揮する。保護者や教職員は彼らが伸び伸びと成長できるように見守って支えていく。そうした関係が学校全体を生き生きとさせていくのだと思います。

こうして、わたしは校長としてあらためて、生徒たちが力を発揮できる場所を、どう守り、どう育てていくのかを考えていくことになりました。校長就任後、わたしの前には創立85周年の記念事業として、老朽化していた校舎の大規模リニューアルという大きな課題が待っていました。このことについては、次回お話ししたいと思います。

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