受験ライフをサポートする 進学情報誌 さぴあ

さぴあは、進学教室サピックス小学部が発行し、内部生に配布している月刊誌です。

さぴあインタビュー/全国版

創造的な学びがあふれる
豊かで温かな土壌が
主体的に生きる力を育む

桐朋中学校・高等学校 校長 原口 大助 先生

教育目標は「自主・敬愛・勤労」 生徒の意欲が育つ学びの風土

神田 初めに学園の沿革と、先生が学園にどのようにかかわってこられたのか、お聞かせいただけますか。

原口 本校は1941(昭和16)年に創設された第一山水中学校を前身としています。第一山水中学校は、海運業で財を成した山下亀三郎氏の寄付によってつくられました。もともと軍人子弟を教育する学校だったので、終戦直後は存続が危ぶまれましたが、当時の教職員が奔走した結果、東京文理科大学・東京高等師範学校(現・筑波大学)の協力を得て、学校が存続できることになり、東京文理科大学の桐の校章になぞらえ、「桐朋」という新しい校名で再スタートしました。それが1947年のことです。

聞き手1
サピックス
教育情報センター所長
神田 正樹

 わたしは本校の卒業生です。本校出身の父の勧めもあって、中学から入りました。高校卒業後は京都大学文学部に進み、国文学を専攻しました。そして教育実習で本校に来たとき、恩師に声を掛けていただき、1989(平成元)年に国語科の教員として戻ってきました。以後三十数年、中学の生活指導主任や高校部長を経て、この4月に校長に就任しました。

神田 お父さまの代からかかわってこられ、この学園を本当に知り尽くしていらっしゃるのですね。今年で創立80周年を迎え、卒業生も2万4000人を超えたそうですが、卒業生と在校生、先生方とのつながりがとても深い学校だと伺っています。

原口 中学は1学年に6クラスあり、担任は持ち上がり制です。クラス替えは毎年ありますが、学年を構成する担任陣が高校を卒業するまでかかわるということもあって、生徒と教員との間に信頼関係が形成されていきます。卒業後も本校に顔を出してくれる卒業生は多く、在学している後輩のためにさまざまなサポートをしてくれます。

西川 先生ご自身は在学中、印象に残った授業や先生はいらっしゃいますか。

原口 昔はおおらかな先生方が多かったですね。国語の先生は定期考査を通常の授業のなかで行うこともありました。何も書かれていない真っ白な紙を配って、名前を書かせ、「問1と書け」と始めるわけです。そして「教科書の何ページの何行目についての自分の考えを書け」と続け、しばらくして「そろそろ書けたか。じゃあ問2と書け」という具合でした。図形の定期考査では問題が紙の表と裏に1問ずつしかなく、問題文の下は白紙。そこに証明を書かせるのです。その先生がわたしのクラスの試験監督をされていたときには、歩きながら一人ひとりの解答をのぞいて、正解しているとその場で〇を付けてしまうんです(笑)。その先生の授業では、大いに発奮させられました。出された問題について一生懸命に考えて、式をたくさん連ねて、やっとの思いで解答を書くと、それを見た先生は「ご苦労だったね。こうやればいいんだけどな」と言って、補助線をぴっと1本引いて終わり。鮮やかなものです。すごいと思いながら、いつかぎゃふんと言わせたいと思っていました(笑)。

神田 わたしも同じような経験があります。「目からうろこ」といいますか、そういうやりとりがあると、生徒も「今度こそ」と、自分から進んでやりたくなりますよね。

西川 教育目標として「自主的態度を養う」「他人を敬愛する」「勤労を愛好する」の三つを掲げています。これについてご説明いただけますか。

原口 桐朋として再スタートしたときの初代校長は、哲学者で東京文理科大学の学長だった務台理作先生です。務台先生は教育基本法制定の中心的役割を担った方で、本校の教育目標も、教育基本法の条文から抜き取る形で作成されたと聞いています。務台先生は自主的に学ぶことの大切さを生徒に話していました。わたしたちが生徒に望むことも同じで、自分の力でやりたいことを探究する姿勢を身につけてほしいと願っています。それが「自主的態度を養う」です。「他人を敬愛する」は、良い意味でお互いを認め合う関係性のことです。自分らしくありたいという思いを受け止めてくれる存在が周りにいてこそ、個性は発揮できます。本校には、そうした雰囲気が昔からあります。そして「勤労を愛好する」というのは、みんなと協力して行動していこうということで、生徒には行動を形にしていく努力の大切さを伝えています。

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化学実験室の各実験台には換気フードを設置。さまざまな実験が安全に行えます

21年10月号 さぴあインタビュ ー/全国版:
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