受験ライフをサポートする 進学情報誌 さぴあ

さぴあは、進学教室サピックス小学部が発行し、内部生に配布している月刊誌です。

さぴあインタビュー/全国版

創造的な学びがあふれる
豊かで温かな土壌が
主体的に生きる力を育む

桐朋中学校・高等学校 校長 原口 大助 先生

教員の専門性や体験を生かした
今ここでしかできない学び

聞き手2
サピックス小学部
教務部
西川 敦

神田 「自律的な学習者」の育成にもつながると思いますが、貴校では以前から教科の枠にとらわれないユニークな学びに取り組まれています。たとえば、学年企画では、年度ごとにさまざまなことをされていますね。

原口 そうですね。たとえば高1の学年企画では、丸一日、自由に何かに取り組む日を設け、演劇をしたり、映画制作をしたりと、年度によってさまざまなことに挑戦しています。ある年には、その学年の女性教員が出産をした後だったので、男性教員とも協力して「妊娠・出産を考える」という企画に取り組みました。関連する映画を見たほか、助産師さんに講演をお願いして、親のどんな思いの下に子どもが生まれてきたのか、生まれるまでにどんな大変なことがあるのか、といったお話を聞かせていただきました。また教員の友人や近隣のご協力を得て、各クラスに2人ずつお母さんと赤ちゃんに来てもらい、交流しました。お母さんからお話を聞いたり、赤ちゃんをあやしたりするなかで、「自分たちもこういう経験を経て今があるのか」「家族を持つとはこういうことなのか」などと認識する良い機会になりました。

 先日は高2生を対象に、LGBTQ(性的マイノリティー)の方に来ていただいてお話を伺いました。やはり教員が企画したもので、自分らしく生きることの重みや意味を、ご自身の体験をもとにお話しいただき、生徒の心に響くものがあったと思います。

神田 意欲的な先生がいらっしゃるからかもしれませんが、そうした学びの場を設けること自体、すばらしいことです。

キャプションあり
上/コンロや水道の位置、実習に参加する生徒の動線など、こだわりを持って設計された家庭科実習室。洗濯機が3台あり、食器類も充実しています
下/約390名収容のホール。舞台の奥の扉は開閉式で、明るい外光を採り入れることができ、講演会・映画会・討論会など多目的に活用されています

西川 わたしは算数科なので興味を持ったのですが、以前、中2で「数学カフェ」という企画がありましたね。ジュニア数学オリンピックの予選問題の解答を、公式サイトより早く出すというもので、解答が判然としない問題について白熱した議論が交わされたと伺いました。

原口 おもしろがってやれるもの、頭をひねらないとできないものを提示していく取り組みは、各学年の教員が工夫して行っています。数学科には機械工作に関心がある教員もいて、昼休みに希望者を集めて、インクジェットプリンターなどの廃材を使って機械を組み立てることなどもしています。中1を受け持ったときから継続して行っていて、そのときの生徒が高1になった今、有志団体「桐朋電子研」を結成し、この10月に東京ビッグサイトで実施される「Maker Faire Tokyo 2021」に出展することが決まっています。

 学年の企画のほか、「この指とまれ」方式で希望者を集めるなど、やり方はいろいろありますが、さまざまな取り組みのなかで生徒の興味・関心にフィットするものがあればいいと思います。また、参加した生徒が、そのときはぴんとこなくても、後に良い経験だったと振り返れるようなものでもいいとも思っています。

西川 先生方は皆さん、高い専門性をお持ちですね。それを生かした取り組みが「特別講座」でしょうか。

原口 「特別講座」は教科の枠を超えて、教員がそれぞれの専門を生かして自由な発想の下で開講しています。本校には教員の研修を支援する制度があるので、大学院や研究施設で最先端の研究活動に1年間取り組んで戻ってきたり、授業の持ち時間を減らして研修に参加したりすることもできます。そこでの研究成果を「特別講座」に生かす教員もいます。たとえば、「現代天文学入門」という講座を担当している地学の教員は、東京学芸大学や三鷹の国立天文台で1年間学び直し、そこで得た知見を生徒に伝えたいと考えてこの講座を開きました。このほか、今年度は数学のガロア理論についてのかなり専門性が高い講座が開かれていますし、国語科の若い教員の講座では、映画の技法について分析を加えて、生徒と意見交換をしていくという取り組みをしています。

21年10月号 さぴあインタビュー/全国版:
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