受験ライフをサポートする 進学情報誌 さぴあ

さぴあは、進学教室サピックス小学部が発行し、内部生に配布している月刊誌です。

さぴあインタビュー/全国版

専門性が高い教員による授業と
実体験で「知的基礎体力」を養い
みずから未来を切り開く力を育む

東京学芸大学附属世田谷中学校 校長 福本 みちよ 先生

興味・関心を伸ばす「総合学習」
企業とのコラボレーションも

神田 カリキュラムは「基本学習」「総合学習」「生活学習」の三つが柱で、それらが密接に関係しながら、全体として生徒の力を伸ばしていくということですね。

聞き手1
サピックス
小学部教務部
野口 伊知朗

福本 中学校の3年間で生徒の学びが完結するわけではありません。わたしたちには、その先に学びをつなげていく責務があります。そのためには、まず「基本学習」で基礎・基本をしっかり定着させることが必要ですが、その基礎知識を使いこなせなければ意味がありません。使いこなすには、いかに生徒の興味・関心を引き出し、基礎・基本を発展させられるかが重要なのです。

 一方、「総合学習」は本校の強みです。生徒の興味・関心は多岐にわたっており、今の流行に合わせてばかりだと、大事な芽を摘んでしまいます。生徒たちが持つさまざまな興味・関心を取りこぼしのないように拾い上げ、刺激して、伸ばしていきたいと思っています。そのために「総合学習」のなかで行っているのが「テーマ研究」です。これは大学のゼミに近いもので、ある程度の枠組みのなかで生徒が興味を持ったことを、2・3年生が学年の枠を超えて一緒に研究していきます。

 それから本校では、英語や国語のスピーチなど、基礎学力を生かしたコンテストを行っています。たとえば英語のスピーチコンテストでは、SDGs(持続可能な開発目標)をはじめ、さまざまな社会問題を自分でテーマに選んでスピーチをします。民族を問わず、さまざまな考えを持つ人が増えていますから、それを中学生としてどう捉えるかを英語で話します。わたしも聞きましたが、「中学生でそこまでできるか」と思うほどすばらしい内容でした。基礎学力をつけ、自主性をプラスして発信力を身につけていくさまざまな機会を設けています。

キャプションあり
図書館の蔵書数は2万数千冊。教員や生徒のリクエストを随時受け付け、委員が定期的に購入しています。「テーマ研究」の調査・研究でも活発に利用されています

野口 「テーマ研究」は具体的にどのような形で行われていますか。

福本 いろいろなテーマがあって、やり方もさまざまです。たとえば、最近では地域とのコラボレーションが増えていて、地元の大手パンメーカーと一緒に商品開発をさせていただいたこともあります。生徒が新しいパンを考えて提案するのですが、企業としてはコストパフォーマンスも利益も重要ですから、生徒が提案しても、なかなか通らないわけです。いろいろなアドバイスをいただきながら、生徒たちは現実的に考えて提案するようになります。今回はありがたいことに、生徒が提案したパンが期間限定で商品化されることになりました。そのほか、NPOの方をお呼びして、お話をしていただくこともあります。本物から学ぶことは大事ですから、なるべくそのような機会を増やしています。

野口 自主性を持たせるというお話がありましたが、中学生に自主性を持たせるのは難しいことです。最近は、保護者の敷いたレールをただ歩いてきただけで、自分から動くことができない子どもが増えているように感じます。そういう子どもを、どう自主的に取り組めるように導かれているのでしょうか。

福本 こうすれば自主性が育つという魔法のようなやり方はありませんが、わたしは本校の教員たちが、少年少女のように知的好奇心を持って授業をしていることが大きいと思います。どの教科でも、授業をしていると、話が止まらないという教員がたくさんいます。それは自身の研究につながっているところだと思います。先ほど、「教師が育つ学校が子どもが育つ学校」と言いましたが、子どもたちはわからないなりに、教師たちが育つ姿を感じていると思います。それによって、生徒たちも自然に変わっていきます。

22年4月 さぴあインタビュー/全国版:
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