受験ライフをサポートする 進学情報誌 さぴあ

さぴあは、進学教室サピックス小学部が発行し、内部生に配布している月刊誌です。

さぴあインタビュー/全国版

卓越した体験学習を軸に
グローバルスタンダードの
「学力」と「人間力」を育成

海城中学高等学校 校長 大迫 弘和 先生

演劇的な手法を用いた体験学習で
「新しい人間力」を育成

聞き手1
サピックス小学部
事業本部
溝端 宏光

溝端 特徴的なプログラムについて伺います。まず「新しい人間力」を育てるためのプログラムとして「プロジェクトアドベンチャー(PA)」があります。具体的にどんなことをするのでしょうか。

大迫 「新しい人間力」とはコミュニケーション能力とコラボレーション能力を兼ね備えた力のことです。PAは丸太やロープなどから成るエレメントを使って、チームで課題に取り組む力を育てるプログラムです。たとえば、横たえた丸太の上に1グループ十数名がランダムに乗ります。それを丸太に乗ったまま、左から生年月日順に並び替えることを、ことばを一切使わずに行うのです。全員が力を合わせ、試行錯誤してクリアするなかで、仲間や他人を理解する姿勢や仲間にはたらきかける力を育むのが狙いです。また、一つのアクティビティーが終わるごとに振り返りをして、同じような状況のなかで活用できるよう汎用的な知恵としても蓄えていきます。

溝端 「新しい人間力」を育むもう一つのプログラムが「ドラマエデュケーション(DE)」ですね。これはどのような内容ですか。

大迫 演劇の手法を用いて体験的に学ぶものです。中1では「安全ワークショップ」というものを各学期に行っています。新入生の多くは、勉強は得意だけれど「非認知能力」はそれに比してまだ十分ではないケースが多く見られ、放っておいたら対立やいさかいが起きてしまうこともあります。それをいかに回避するかを演劇的な手法を使いながら考えていきます。キーワードは「カイテケーション」という造語です。快適+コミュニケーション、つまり人と人とがお互いに不愉快にならない程度に心地よく関わるために、自覚したスキルを持つことが必要だというところから始めます。また、中2で取り組んでいるのは聞き書きに基づく創作です。近所の商店街の方や神社の神主さんなど、いろいろな職種の人に、人生でいちばん印象に残った経験について伺い、それを基にドラマを作ります。生徒にしてみればまったく知らない世界の人たちです。そういう人たちと接する機会は、社会科の総合学習でも設けています。社会科ではレポートを書くようなとき、必ず取材に行きます。自分でアポイントを取って、どんな人なのかわからない相手に話を聞きに行くわけです。そういうことを中1から何回も繰り返しますから、先ほど申し上げた多様性教育の種もそういう形でまかれているといえます。

神田 相手はプロフェッショナルの方ですよね。プロの大人に中学生が話を聞いて、自分なりに学んでいく。とても優れたプログラムですね。

大迫 ドラマを作るときは、演劇のプロの方々が教えに来てくださいます。ただ自分たちが楽しいと思うだけのいい加減なものを作ると、リハーサルの段階で駄目出しをされます。「これでは見に来てくれた人に何も伝わらない。そんなものは評価しません」と。すると一生懸命に作り直します。それが大事な経験になります。その世界のプロのことばを素直に受け止め、自分たちだけで楽しむようなものでは意味がない、ということがわかるのです。

23年8月号 さぴあインタビュー/全国版:
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