さぴあインタビュー/全国版
人と人との交わりを軸に
豊かな学力と人間力を育み
希望の未来へと送り出す
芝中学校・高等学校 校長 武藤 道郎 先生
浄土宗の教えに帰依した
「人を育てる」教育
サピックス
教育情報センター所長
神田 正樹
サピックス小学部
教務本部
福泉 秀司
サピックス
東京校校舎責任者
谷口 謙介
神田 初めに、学園の沿革についてご紹介いただきたいと思います。
武藤 本校の母体は、江戸時代初期に定められた関東十八檀林(僧侶養成機関)の筆頭、増上寺です。そこから浄土宗の子弟教育を目的とした浄土宗学東京支校が設立され、1906(明治39)年に一般子弟の教育に門戸を開放して私立芝中学校が設立されました。本校の教育理念と教育の基盤は3代校長の渡邊海旭先生によって確立されたといえます。海旭先生は浄土宗の僧侶である一方、1900年から10年間ドイツに留学して帰国後は教育者、社会事業家としてさまざまな活動をされました。わたしは入試広報部長、副校長を経て、2017(平成29)年に15代校長に就任しました。
神田 卒業生の方が書かれた『紫雲の人、渡辺海旭〜壺中に月を求めて』を読ませていただきました。宗教の再生、社会事業、教育などに非常に力を尽くされた方で、ことばを発しなくても、そこにいらっしゃるだけで生徒に伝わっていくものがある、そんな方だったようですね。
武藤 こんな話が伝わっています。悪さをしたある生徒を海旭先生が自坊に招いたそうです。そこで先生は、生徒をとがめるでもなく、2人で夕方までただ縁側に座って庭を眺めて、「暗くなってきたからそろそろ帰りなさい」と言われただけでした。同じものを一緒に見る、そこが大切なのです。海旭先生は生徒の表情を見るだけで、わかることが多かったということでしょう。
神田 昔は登校時に正門に生徒指導の先生が立って、遅刻してきた生徒を厳しく注意したそうですね。でも、海旭先生が門に立たれたときは、遅刻してきた生徒がいてもひと言もおっしゃらず、ただ見守っていたと。それだけでその生徒は二度と遅刻をしなくなったそうですね。
武藤 わたしも毎朝、正門に立っています。遅刻してくる生徒には遅刻してくるなりの理由があって、なるべく声を掛けるようにしています。そういうところに現代の家庭環境、社会や教育のあり方が見えるものです。社会情勢は変わり、子どもの教育も親の働き方も変わりましたが、海旭先生が昔からされてきたように、わたしたちは「人を育てる」ということをこの場でずっとやってきたのだなと感じます。よく「人間力」と言いますが、簡単なことばではありません。今は欲しい物は何でも手に入る時代です。学力もそうです。努力をすれば手に入ります。でも、人間力や人柄というものは、年齢に応じたさまざまな交わりを持つなかで育てていかなくては確立できません。
本校は世界から見れば小さな学校法人ですが、生徒たちが社会に出ていくときは、海旭先生の教えや法然上人の教え、あるいは「自灯明・法灯明」という釈尊が最後に残したことば、そこに帰依していく気がします。簡単にいえば、自分がどんな人間なのかを知り、そのうえで自分をありのままに受け入れる覚悟を持つということです。そして社会のなかでどう生きればいいのか、どんな貢献ができるのか、どう家族を守っていけばいいのか、考えるヒントを芝での6年間で得てほしいと思います。
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