受験ライフをサポートする 進学情報誌 さぴあ

さぴあは、進学教室サピックス小学部が発行し、内部生に配布している月刊誌です。

さぴあインタビュー/全国版

より深く、より広く学び、
みずから考え活動する毎日が
未来を開く力を育てる

吉祥女子中学・高等学校 校長 赤沼 一弘 先生

あえて宗教教育は取り入れず
創設時より多様な価値観を重視

神田 初めに、学校の沿革と、先生が学校にかかわってこられた経緯についてご紹介いただけますか。

聞き手1
サピックス
教育情報センター所長
神田 正樹

赤沼 本校は1938(昭和13)年、地理学者の守屋荒美雄によって創設されました。建学の精神は「社会に貢献する自立した女性の育成」です。当時は教育といえば男子のもので、女子は家庭に入るものという考えが主流でした。しかし荒美雄先生は、「社会を良くするためには、女性が活躍する時代にならなくてはならない、そのためには女子に教育の機会を与える必要がある」という理念を持っていました。残念ながら荒美雄先生は開校直前に亡くなりましたが、数学者で当時は北海道大学の助教授だった長男の美賀雄先生が遺志を継いで開校させました。

 2人とも熱心なキリスト教徒だったにもかかわらず、学校に宗教教育は取り入れませんでした。宗教という柱があれば教育の方向性は立てやすかったと思いますが、いろいろな考え方を持つ生徒同士、あるいは生徒と教員が交流するなかでこそ、新たな気づきがあり、成長が促されると考えたのでしょう。それは「互いの価値観を尊重しよう」という本校の校是の一つにもあるとおりです。

 わたしは東京理科大学で学んだ後、東京工業大学の大学院に進みました。応用化学を専門に研究を続けていたので、そのまま研究の道に進むか、教職に就くかで迷いましたが、自分が身につけたものを次の世代に伝え、この子らがさらに高みをめざしてくれれば、こんなにやりがいのあることはないと考え、教員の道を選ぶことに決めました。そのとき、たまたまお誘いがあって、1994年に本校の理科教員になったのです。

神田 荒美雄先生ご自身は苦労して教員になられ、後に教科書や地図帳の出版で知られる帝国書院を設立されました。会社を立ち上げたときは従業員が1人もいない状態で、ご自身で書いて、編集して、販売もするというところから始められたそうですね。

赤沼 荒美雄先生は若いころ、貧しくて満足な教育が受けられない環境にありました。そんな厳しいなかでも妥協することなく学び続け、当時の地理学を根底から覆すような学びやすい教科書を作りました。それが受け入れられて今の帝国書院があると聞いています。

神田 その成功で得た資金で学校を創設されたわけですね。実はサピックスで白地図を作るとき、地域ごとの地形にはどのような特色があって、どんな産業や文化があるのかということも一緒に学べるようにしたいと考え、帝国書院に相談したことがあります。その何十年も前に、荒美雄先生はさまざまな工夫をして教材を作られていたのですね。

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22年2月号 さぴあインタビュ ー/全国版:
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