受験ライフをサポートする進学情報誌 さぴあ

2026年度中学入試 親子で歩んだ 受験の軌跡

進学校 海城中学校

勝つためではなく、出し切るために

 「この焦る気持ちは初めてで、どうしたらいいかわからない」。12月31日、正月特訓の帰り道、息子が疲れ切った声で言いました。これまで開成を目標に学習を続けていましたが、冬期講習に入ってから結果が乱れ始めていました。解けない問題が増えたわけではなく、解けるはずの問題を落としてしまう。その不甲斐なさに押しつぶされ、背中から自信が消えていました。このまま本番を迎えてしまうのではないかという不安を、親の私の方が強く感じていました。

 年が明けても焦りは収まらず、家庭で話し合った末、正月特訓を一日休ませる決断をしました。気分転換に映画『栄光のバックホーム』を観に行きました。主人公の選手の生き様に心を動かされたようでした。帰宅後には関連する映像を一緒に見ました。優勝をかけた試合の9回に「栄光の架橋」の曲を背にブルペンへ向かう投手の姿、甲子園でスタンドの全員が同じ歌を口ずさむ光景、優勝の胴上げとともに宙に舞う背番号24のユニフォームを、息子は何度も見返していました。私は「結果は気にせず、前向きに全力を出そう」とだけ声を掛けました。翌朝、塾へ向かう背中には久しぶりに力が戻っていました。その姿に、親の私の方が肩の力を抜くことができました。

 冬期講習最終日には担当の先生の計らいで緊急面談を行いました。私からは志望校変更を提案しましたが、本人は最後まで開成への思いを手放せず葛藤しました。先生に状況を整理していただく中で、学習の軸は開成を目標としたまま受験校の組み立てを見直す決断をしました。

 それでも開成の出願締切が近づく中で迷いは消えませんでした。母親にだけ思いを打ち明けていたことをきっかけに家族で向き合い、何度も話し合いました。最後は「挑戦する学校を選ぶ」のではなく「実力を出し切れる受験にする」という考えにたどり着き、海城を受験することを決断しました。

 海城に志望校を変更し、先生には授業後に社会の記述を丁寧に添削していただき、本番への不安を一つずつ減らすことができました。入試直前にはSSのクラスでも上位の成績で終えることができ、開成を受験する選択も現実的になっていました。それでも最後は結果ではなく実力を出し切れるかを基準に、ブレずに海城を目標に取り組みました。

 そして迎えた入試当日、会場へ向かう後ろ姿を見送りながら、合格してほしいという思いより、この子がここまで歩いてきた時間そのものに意味があったのだと、その背中を見て初めて思えました。

 世間ではサピックスは厳しく冷たいと言われることもあります。しかし迷ったとき、感情ではなく受験のプロとしてしっかりと寄り添い、進むべき道を示してくださいました。受験直前に頼るべきは特別な対策ではなく、これまで積み重ねてきた経験なのだと実感しました。本当にありがとうございました。