受験ライフをサポートする 進学情報誌 さぴあ

さぴあは、進学教室サピックス小学部が発行し、内部生に配布している月刊誌です。

さぴあインタビュー/関西情報

里山のある恵まれた環境で
課題研究に取り組みながら
難関大学への進学力を培う

奈良学園中学校・高等学校 校長 河合 保秀 先生

里山を有する環境を
SSHの研究活動に生かす

中嶋 さて、貴校は2012年度から高校がSSHに指定され、その取り組みの一環として、敷地内にある里山を生かした自然環境学習を実践されています。里山がある学校というのは、全国的にもたいへん珍しく、恵まれた環境ですね。

先生写真
校長 河合 保秀 先生

河合 敷地が広く自然が豊かすぎて、校門に到着しても校舎が見えないという、ある意味、不便な環境ですが(笑)、それが本校の貴重な教育資源であり、大きな特長の一つです。この里山も、もとは敷地内の山だったのですが、10年以上前に本校をSSH指定校にしたいと考えた当時の校長が、大阪府から生物の先生を招きました。その先生が中心となって献身的に里山の整備をしてくれたと聞いています。もともとあった棚田も整備し、そこで自然環境学習ができるようにしたのです。

 そのほかに、校外での研修も行っています。昨年度は青森県・秋田県の白神山地にあるブナの自然林をはじめ、兵庫県豊岡市にある県立コウノトリの郷公園、和歌山県の白浜などでの校外実習を行うことができました。SSH指定校になると、そうした研修に必要な費用が出るのは、たいへんありがたいことです。

中嶋 里山では、具体的にどんな取り組みをされているのですか。

河合 代表的な例が、生徒全員で取り組んでいるシイタケの栽培です。里山にあるコナラの雑木は、適宜伐採をする必要があるのですが、伐採した丸太を生徒に1本ずつ渡し、そこにシイタケの菌を植えて育てています。また、学校敷地内では、ホタルがすめる環境づくりも行っていて、毎年、梅雨入り前くらいからホタルが飛び交います。棚田の水路の途中に土のうを置くなどして水の流れを穏やかにし、ホタルの幼虫の餌となるカワニナの育ちやすい環境にするのですが、そうした活動は毎年、中学生が自然環境学習の一環として行っています。

 棚田での稲作は主に高校生が行っていますが、作っているのは本校の周辺で作られる一般的な品種ではなく、希少品種の「農林22号」です。稲作を開始する際に農林水産省からもらってきたモミ3粒から増やしてきたものなのです。無農薬で栽培しているのはもちろん、田んぼにまだ水が残っているうちに稲刈りをするので、ゲンゴロウなどの生物も田んぼにすみ続けることができます。そのように環境に優しい稲作を、京都大学の先生のアドバイスも受けながら続けています。この棚田は近年、イノシシに荒らされて収穫できなかった年があったため、昨年度は電気柵の整備をしたのですが、残っていた最後のモミを使い果たした年に無事に収穫できたので、とても感動しました。

中嶋 そうした自然環境学習は、授業の一環として行っているのですか。

河合 そうです。毎週の時間割に盛り込んでいるわけではなく、行事的ではありますが、授業という位置づけです。

中嶋 貴校の生徒たちは、そうした実習を通じ、どんな学びを得るのでしょうか。

河合 大学受験とは直接関係のない学びですが、そこから何か興味・関心を持つ生徒もいるでしょう。世界が重要視するSDGs(持続可能な開発目標)の視点でものを見る取り組みでもあり、自分の将来を考えるうえでの大きな刺激になっていると思います。

 また、本校では、高2から「SS発展」というコースも設けられており、それを選択した生徒たちは、授業でさらに自然環境学習を行います。大学の医学部医学科をめざす「医進」コースにも、SS探究チームというクラブ活動のようなものを作って、自主的な研究を行う生徒たちがいます。そうした経験をした生徒たちは、大学進学後もその方面の学びを続けたり、あるいは卒業生として本校の自然環境学習の支援を行うチームを作ったりしています。そして、さらに来年からは、これまで高校生だけで活動していたSS研究チームに、中学生も参加できるようにすることを計画しています。

中嶋 在校生だけでなく、小学生が参加できる自然環境学習にも取り組まれているそうですね。

河合 はい。小学生向けには、「奈良学塾」という名称で、里山での昆虫採集をしたりしています。また、里山に生き物たちが生息している理由や、その自然環境を守るためにどんな取り組みをしているのかを知る学びの機会も設けています。本校の生徒たちも、その活動を手伝ってくれています。

22年1月号 さぴあインタビュー/関西情報:
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