受験ライフをサポートする 進学情報誌 さぴあ

さぴあは、進学教室サピックス小学部が発行し、内部生に配布している月刊誌です。

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2022年5月のBooks

 皆さんは偉人の伝記を読みますか。偉人というと、少し堅苦しい気がしますが、伝記に取り上げられる偉人には、真面目な優等生タイプの人はあまりいません。無茶ばかりして、思い込んだらとことん突き進むタイプの人が少なくないようです。今月紹介する『北里柴三郎』もそうですが、最近は物語を楽しむ感覚で気軽に読める伝記が数多く出ています。読む本に迷ったら、自分の好きな分野で活躍した人の伝記を読んでみませんか。

『ノーサイド 勝敗の先にあるもの

  • 村上晃一=著

  • あかね書房=刊

  • 定価=1,430円(税込)

  • 対象:小学校中学年向け・小学校高学年向け

勝敗はもちろん大事だ でもあの日、ぼくたちは 敵味方なく30人で戦っていた

注目の一冊

 2021年1月3日。第100回全国高校ラグビー大会の準々決勝4試合が、東大阪市の花園ラグビー場で無観客で行われました。この日いちばん注目されたのは、何度も全国大会で優勝を争ってきたライバル同士、東海大大阪仰星と東福岡の対戦です。試合は前後半合わせて60分。中断すると時計を止め、プレー再開とともに再び動かすので、開始から60分を過ぎても試合が続くことがあります。この時間をロスタイムといいますが、普通は長くても5分程度。中断した時間が過ぎて、ボールがラインの外に出るなどプレーが途切れたところで試合終了となります。ところがこの試合はロスタイムが18分という異例の長さになりました。プレーが途切れなかったので、レフェリーは試合終了の笛が吹けなかったのです。
 仰星の近藤キャプテンは試合後、この18分を振り返ってこう言いました。「30人で試合をしているような一体感がありました。プレー中にノーサイドがきていた気がします」。1チームは15人ですから30人は相手チームも合わせた数。ノーサイドとは「試合終了」のことで、「試合が終われば敵も味方もなく友だちだ」というラグビー精神をも表しています。そんな気持ちが試合中に湧いてきたとはどういうことなのか。勝利をめざして戦ったことに変わりはありませんが、彼の目には勝敗を超えた何かが見えたのかもしれません。
 両校ラグビー部の練習と試合の日々を描く前半。多くの人が感動したこの日の18分のロスタイムを詳しく追う後半。チームで戦うとはどういうことか、スポーツを通して人が成長していくとはどういうことなのかが、ラグビーを通して伝わってきます。

『さかさまがっこう』

  • 苅田澄子=作

  • つちだのぶこ=絵

  • 文溪堂=刊

  • 定価=1,430円(税込)

  • 対象:小学校低学年向け

忘れ物をしたら 「えらい!」と先生 そんなことってある?

 算数で使うおはじきを忘れた、だいくん。また先生に怒られるかと思うと、気が重くなります。いつも怒られていることが逆さまになって、ほめられるといいなあ。そう思いながら、「えいっ」と逆立ちをした、だいくん。するとどうでしょう。1時間目の算数が始まると不思議なことが起こったのです。
 0点をとったのにほめられたり、ろう下を走ったのに先生に喜ばれたり。そんなすべてが逆さまの学校があったら、ちょっと楽しいかもしれません。でも困ることもあるかもしれませんね。そんな、読んでいるだけで楽しくなる学校のお話です。描かれた子どもたちのユーモラスな表情を見るだけでも楽しめます。

『生物がすむてはどこだ? 海底よりさらに下の地底世界をさぐ

  • 諸野祐樹=著

  • くもん出版=刊

  • 定価=1,540円(税込)

  • 対象:小学校中学年向け・小学校高学年向け

海底から下へ2.5km こんな厳しい環境にも 生き物がいた!

 深い海の底からさらに2.5kmも下の地底。太陽の光が届かないのはもちろん、酸素もなく、石や泥ばかりの世界です。しかも深海にはとてつもない水圧が掛かっています。こんな環境には生き物はいないと、これまでは見られていました。ところが、1億年も前に積もったこの地層にも微生物が存在し、実験室では餌を食べてよみがえったのです。
 JAMSTEC(海洋研究開発機構)の研究員である著者が、海底下の微生物やその研究・調査方法について教えてくれます。特におもしろいのは、日本が誇る科学掘削船「ちきゅう」が、海底下の地層を掘り出す様子です。海底下の微生物はどう進化したのか、海底下のどこまで生き物がいるのか、興味は尽きません。

『馬と明日へ』

  • 杉本りえ=作

  • 結布=絵

  • ポプラ社=刊

  • 定価=1,650円(税込)

  • 対象:小学校高学年向け

ありがとう、マリモ へたでごめんね ぼくがんばるよ

 悠斗は地域の乗馬クラブに通う小学6年生。3年生のときからクラブに通い、今はクラブのエース馬、マリモとともに競技会に向けて練習中です。ある日、クラブに新会員の陽向が入ってきます。陽向は口数が少なく、馬の世話はよくするのに、なぜか馬に乗りたがりません。悠斗は陽向のことが気になり始めました。
 馬たちとの日々は楽しいこともあれば、つらいこともあります。馬たちとの触れ合い、そしてクラブに通う仲間との交流を通して、成長していく子どもたちの姿をすがすがしく描きます。人が馬に教えることもあれば、馬から教わることもあります。馬から人へ、人から馬へ。託されたバトンがつながれていきます。

ストーリーで楽しむ伝記 北里柴三郎』

  • 石崎洋司=著

  • 小坂伊吹=絵

  • 岩崎書店=刊

  • 定価=1,650円(税込)

  • 対象:小学校高学年向け

病原体の正体がわかれば 治療法がわかる! これだ! こんな仕事がしたかった!

 幼いころ、わんぱく坊主だった柴三郎。剣術のけいこだといっては、村の子どもたち相手に暴れ回る毎日。そんな彼にも胸が痛むことがありました。長崎から伝染病のコレラが感染し始め、瞬く間に全国に広がっていったのです。柴三郎も3人の弟妹をコレラで亡くしました。いくら剣術が強くても病気には勝てない。無力感が柴三郎を襲いました。
 ドイツに留学し、破傷風の治療法を開発するなど、感染症の研究と予防に大きな功績を残した北里柴三郎。その背景には、彼を評価し協力してくれる人々との出会いがありました。感染症が社会に大きな影響を与えることがわかった今だからこそ、読んで理解を深めたい伝記です。

『はじめて学ぶ環境倫理 未来のために「しくみ」を問う

  • 吉永明弘=著

  • 筑摩書房=刊

  • 定価=902円(税込)

  • 対象:小学校高学年向け

「個人の心がけ」ではなく 「社会のしくみ」として 考える環境問題

 「環境倫理」とは何でしょう。簡単にいえば、「すべき」ことと「すべきでない」ことを考えるのが「倫理」です。一方、「環境」とは、言い換えれば「身の回り」です。といっても、個人個人が環境に配慮した生活を「心がけるべき」というだけではなく、社会のシステムそのものを変えていく必要があると著者は言います。
 未来の世代に配慮しなければならないのはなぜか、地球温暖化における企業・生産者・消費者の責任分配は公平か、なぜ生物を絶滅から守らなければならないのかなどなど。多岐にわたる内容を盛り込みつつ、読む人が自分の問題として受け止められるように説明しています。環境問題に対して自分はどうすればよいか、考えるヒントを示してくれます。

『子どもの哲学 考えることをはじめた君へ

  • 河野哲也、土屋陽介、村瀬智之、神戸和佳子=著

  • 毎日新聞出版=刊

  • 定価=1,430円(税込)

ここから始めよう 答えのない問いを 自分なりに考えてみることを


永福町校 校舎責任者

 「何のために学校はあるの?」「どうして勉強しないといけないの?」といった疑問を持ったことはありませんか。このような誰しも一度は思うような疑問を取り上げ、哲学者の4人が語り合っている本です。哲学といっても、難しいやりとりはなく、「ぼくはそう思うよ」「いやそんなことはない」「まあまあ」などと話しているだけで、誰も答えを教えてはくれません。なぜなら、このような疑問には、みんなが納得する答えがないからです。
 たとえば「頭の良い人ってどんな人?」というテーマがあります。これに対し4人のうちの1人は、古代ギリシャの哲学者であるソクラテスの「無知の知」ということばを借りて、「頭の良い人は謙虚な人だと思う」「自分がどれだけできないかを意識している人が本当に頭の良い人だ」と主張しています。ソクラテスは頭が良さそうな政治家たちと議論をしたとき、「この人たちは知ったかぶりをしているだけだ」と思い、こう言ったそうです。「自分は頭がいいとは思っていないけれど、知らないという自覚がある分、あなたたちより賢い」と。
 サピックスの授業は「どうして?」「なんでそうなるの?」といった疑問を持つことを大事にしています。わたしも授業では、「知らない」ということを前提に、一生懸命に考えてもらうことを大切にしています。知らないという自覚があるからこそ、貪欲に探究することができるのです。そういうところにも通じるものがあるので、この本を薦めたいと思いました。
 答えがない問いに対して自分なりに考え、自分なりの結論を出すことはとても大事なことです。しかし、答えがないという前提のもとに考える経験を、子どもたちはあまりしていないと思います。この本は、正解を提示してはくれない代わりに、ふだん当たり前だと思っていること、深く考えていないことを考え直すきっかけを与えてくれます。テーマごとに短くまとまっているので、5分もあれば一つのテーマを読むことができます。5分読んだら、後はぼけっと寝転がって考えてみる。そんな時間を持ってみませんか。

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